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店の価値 2011.09.21

 今回は、目まぐるしく変化している「店の価値」について。

 その内容に触れる前に、まずはきちんと弊社の業務内容に触れておきます。弊社の業務内容は「店舗デザイン」です。その中でも特に多いのは「物販店」のデザイン。インテリアデザイン、空間デザイン、ショップデザイン、リテイルデザインなど呼ばれ方は様々ですが、要するに「店舗デザイン」です。もちろん、必要とあらばグラフィックデザインもディレクションします。ロゴデザイン、パッケージデザイン、ディスプレイなども含め、店に必要なもの全てのディレクションを請け負う場合もありますし、アートディレクターの方と一緒に作り上げていく場合もあります。その中でも、現在弊社がメインとしている業務内容は店の内外装のデザインです。
 
 独立してから10年近く「店」をデザインし続けていますが、その頃から比べて「店の価値」は随分大きく変わりました。もちろん、インターネットで物を買う文化が確立しつつあったさらにその前から、こう変化することは分かっていたとおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、特にここ数年は人がモノを買うその買い方自体の変化は大きく、事実インターネットでの商品の売上げは着実に右肩上がりの成長を続け、逆に実際の店舗の総売上げが落ちてきているという状況が続いています。それは少なくとも10年前の自分には全く想像もできていませんでした。そして、その傾向はこれから数年でさらに大きくなることでしょう。
 
 また「店」はそのブランドの世界観を表現する場であり商品に触れてもらう場所と捉え、実際に商品を購入するのはネットで、といった考え方が定着しているのは現在はまだごく一部ですが、今後はより一層そういった購買層が増加してくるのは確実ですし、どのブランドも各々の解釈のもと、本気でその方法を模索しています。
 
 そんな世の中で「店の価値」すら問われつつある今ですが、当然、人と人、人とモノが触れ合い、コミュニケーションが生まれる「店」、実際に街に出てモノを見て買う楽しさを演出する場としての「店」はこれからも決して無くなりません。今後ネット上でモノが容易に買える環境がより一層整備されていくことで、「店の価値」がさらに際立ってくるとも思っています。
 
 とは言え、もしかしたらブランドの世界観を具現化する「店」は今ほどあちこちには必要なくなってくるかもしれないですし、もし店を作るとしても今までほどお金をかけられないという、店を作るこちら側としては望ましくない状況が待ち受けてもいるのかもしれません。ただ、逆にいえば、実際の店を作るからにはブランドの想いをきちんと具現化した店のデザインが今まで以上に重要になってきてもいるのです。
 
 実際の店舗のみで見た場合でも、今や道路に面して並ぶ路面店よりも駅ビルやショッピングセンターなどの店が横一列に並んでいるインショップの方が「物を買う(売る)」上では便利で売上げとしても見込める状況になりつつあります。
 
 でも「買う」だけならむしろインターネットでも出来てしまう今、買うこと(売ること)を主としない「街を散策する、ついでにモノを買う」という傾向も増えて来ています。出店している街自体の魅力とも必ず連動する話ですが、路面店の価値はこれからさらに変化して行くことでしょう。逆に、散策したいと思えるほど街に魅力がなければ、どんなにいい店でも売れない時代になっています。
 
 また路面店でなくインショップなら、それこそたくさんの店が横並びの環境でいかに自社のブランドを周りの店と差別化し、入りたいと思わせる雰囲気の演出ができるか、そこにはデザインだけではない、売り方やコミュニケーションの方法もより一層重要になってきています。
 
 街、人、モノとコト、ライフスタイル、コミュニケーション、VMD…… 様々な要素が連動し、交差し、今「店」が成り立っています。
 
 「店の価値」が大きく変わろうとしているこの世の中で、今こそ「店」自体も変わらないといけなくなってきています。その転換期を「店」をデザインする側からとても興味深く見守りつつ、デザインを通して私達がどう表現して行けるか、スタッフ一同、日々考えています。新たな「価値ある店」を生み出せることを信じて。
 
有限会社ペブル 代表・三橋 崇